- 2025年4月16日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:タイ
- トピック:表現の自由
最近のタイ議会での討論の中で明らかになった内部文書によると、警察と軍が合同で運用する「サイバーチーム」は、市民団体や野党議員の合法的な活動の信頼を損ね、その影響力を削ごうとしている。また、ソーシャルメディアのアカウントにアクセスするため、フィッシング攻撃や総当たり攻撃(認証情報を取得するためのサイバー攻撃)をしていた。アムネスティ・タイの事務局長も攻撃対象になった。
当局による市民へのサイバー攻撃は、常軌を逸する。当局は、人権擁護活動家に対する誹謗中傷を直ちに停止すべきだ。また、当局は国の誰がどう関与したのかを詳細に明らかにし、公務員、治安部隊の職員、一般市民であるかを問わず、サイバー攻撃に関与した者の責任を問う必要がある。
アムネスティも「重要な標的」に
3月25日の国会での不信任決議をめぐる議論の中で、チャヤポン・サトンディー野党議員により、サイバーチームの内部文書の存在が明らかになった。サイバーチームは、警察や軍、国内治安維持部隊(ISOC)が運用する統合司令センター内に置かれている。
内部文書には、アムネスティは「重要な標的」にとして名前が挙げられていた。他にも人権団体の「タイ人権弁護士会」や司法NGO「iLaw」などの団体、若手の女性人権活動家アンナ・アナノンさんなどの個人名もあった。
サイバーチームは、有害で中傷的なコンテンツをオンラインで拡散した。例えば、デモ参加者への過剰な力の行使を指摘したアムネスティの投稿に対して、サイバーチームは、当局関係者に、抗議者を暴力的に描写するよう指示した。
内部文書によると、2023年の選挙期間中サイバーチームは、アムネスティ・タイの事務局長ら、名が知られた活動家や政敵のソーシャルメディアアカウントを標的に、オンラインのセキュリティ侵害を狙った総当たり攻撃を仕掛けた。
総当たり攻撃とは、認証情報や認証キーのすべての組み合わせを試行錯誤して情報を特定し、システム、ネットワーク、暗号化されたデータへの不正アクセスを試みるものだ。
サイバーチームは、少なくとも昨年10月まで、アムネスティのソーシャルメディアを執拗に監視していた形跡がある。漏洩文書によると、政府関係者は国家安全保障への脅威とみなした内容に攻撃的対応をするように指示を受けていたという。中でも、アムネスティがデモ参加者に対する起訴取り下げを要請したり、ナラティワート県タクバイでデモ参加中のマレー系イスラム教徒の殺害などの人権侵害を指摘したことなどが攻撃対象になった。
タイで続くデジタル権威主義
タイの政権は、歴代政権を含め、技術的証拠や状況証拠を示されても、活動家、人権擁護者、野党議員へのデジタル攻撃を否定してきた。しかし、今回明らかになった事実は、当局によるデジタル攻撃が常態化しているというアムネスティの指摘と一致する。
アムネスティは昨年5月に公表した調査報告書で、女性やLGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)の人権活動家が、当局や国に協力的な勢力により、デジタル監視やオンラインの誹謗中傷を受けていることを明らかにした。こうしたデジタル暴力は、人権活動家や市民活動家への抑圧や表現の自由の弾圧に利用されてきた。
昨年11月、国連拷問禁止委員会は、タイでのスパイウェアの利用や人権活動家への誹謗中傷に深刻な懸念を表し、公正で徹底した調査の実施を国に求めた。
アムネスティは、これまでもデジタル攻撃の対象になってきた。2021年2月、メタ社は、報告書「組織的不正行為」の中で、ISOCがアムネスティなどの市民団体や活動家を狙い、オンラインで不正行為をしたことを明らかにした。アムネスティ・タイのピヤナット・コツァン前事務局長も、ジェンダーに基づく悪口、性暴力の脅し、偽情報など、オンライン空間での誹謗中傷に、繰り返しさらされた。特に2020年、若者主導の抗議行動が始まって以降、誹謗中傷は激しくなった。
市民団体は、人権活動家に繰り返されるデジタル攻撃を記録し、当局に攻撃の捜査と阻止を繰り返し求めてきたが、当局はなんの対応も取らなかった。今回得られた証拠も、活動家や市民団体への脅威が続いている事実をあらためて確認したに過ぎないのかもしれない。
人権を保護するという空約束
2023年9月の国連人権理事会選挙を前に、タイ政府はさまざまな公約を掲げた。新しいテクノロジーを考慮して、デジタル・オンライン空間での人権の保護と推進に向けた政策と法律の策定、関係団体と協力した偽情報対策とプライバシーの権利促進、社会的デジタル格差の解消を挙げた。
しかし、一連のサイバー攻撃は、表現・結社・集会の自由の権利の明らかな侵害にあたる。総当たり攻撃でソーシャルメディアのアカウントを危険にさらす行為も、プライバシーの権利侵害になる。
タイの人権活動家は、長期にわたるデジタル空間での敵対的な扱いに耐え忍んできた。国連人権理事国の一員となった今、タイ政府は公約を守り、まずは、デジタル空間での誹謗中傷を排除し、人権活動家が安心して活動できる環境を構築する必要がある。
背景情報
タイは、市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の締約国であり、国は個人の表現の自由やプライバシーを保護する義務を負う。人権侵害を捜査し処罰するなど対応を取る義務があることを忘れてはならない。
アムネスティは、政治論争には与せず、政治的立場を取らない団体であり、人権団体としての使命を厳格に遵守している。
アムネスティ国際ニュース
2025年4月7日
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