- 2025年2月20日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:ミャンマー(ビルマ)
- トピック:
米国政府がすべての対外援助を突如、凍結したことで、難民や武力紛争地域にいる民間人、迫害から逃れてきた人たちの人権が深刻な危機にさらされている。
アムネスティは、米国が今回の決定を直ちに撤回または修正しない限り、あるいは命を救う支援を凍結対象から除外しない限り、人命が失われかねない、と警告する。
対外援助を即時停止するというトランプ政権の非情な決定は、世界中で壊滅的な打撃を与えており、ミャンマーでは、とりわけ苦境にある人びとが過酷な状況に置かれている。
この決定を受けてタイにあるミャンマー難民キャンプの病院は閉鎖され、ミャンマー国軍の弾圧を逃れた人権活動家は送還の危機に直面している。また、紛争が長引くミャンマーでは、残虐行為の阻止や紛争を生き延びて生活再建に取り組む人びとへの支援が危機に陥っている。
1月20日、米国のドナルド・トランプ大統領は、海外支援が国の外交政策に沿っているか90日間かけて検証するとして、すべての対外援助を一時停止する大統領令に署名した。1月24日、この措置を受けてマルコ・ルビオ国務長官は、国外での援助活動に関わる人びとに活動停止命令を出した。緊急食料支援およびイスラエルとエジプトへの軍事支援については、適用外とした。
1月28日付の追加の例外措置では「命にかかわる人道支援」を停止の対象外とし、さらに2月第1週には、特定の活動に対する例外措置を拡大した。しかし、アムネスティの直近の調べでは、タイとミャンマーの国境沿いで活動する多数の団体は例外措置の対象になっていない。
米国政府の驚愕の動きは、即座に世界に影響を及ぼし、人びとの身に降りかかる。アムネスティがミャンマーとタイで実施した調査で明らかになった事実は、トランプ大統領の無慈悲な政策がもたらした影響のほんの一例に過ぎない。
ミャンマーでは援助の一時停止で、長引く武力紛争の中で疲弊する一般市民がさらなる追い討ちをかけられている。彼らは、激化する武力衝突、広範囲にわたる避難、4年前に権力を掌握した国軍による深刻な人権侵害で苦難を強いられてきた。また、タイに住む数万のミャンマー難民の間にも、混乱、絶望、苦悩が広がっている。
米国の援助は今日まで、緊急避難所や活動家の移住支援、支援の配送、空爆に対する早期警戒システム構築支援、戦闘地域への医薬品提供、希望を失った人びとへの教育機会の提供など多岐にわたった。
アムネスティは2月3日から10日にかけ、タイ国境沿いの難民キャンプで暮らす12人のミャンマー難民と、ミャンマーに関わる活動をする14団体の代表に話を聞いた。団体は、医療従事者、人権調査員、国境を越えて支援するNGO、報道、教育の関係者などだ。全員が、「援助の一時停止が撤回されるか見直されなければ、深刻な事態になるだろう」と警鐘を鳴らした。いずれの団体も、米国政府から活動を続けるための例外措置に関して連絡を受けていない。
「私たちの使命に終わりはない」
人命にかかわる人道的援助を除外するとの約束にもかかわらず、援助の一時停止は、ミャンマーとの国境沿いのタイの9カ所の難民キャンプで生活する10万人以上の人びとの健康に深刻なリスクをもたらしている。ほとんどは、紛争や暴力を逃れてキャンプで暮らしてきたが、国軍のクーデター以降、キャンプの規模は拡大する一方だった。
アムネスティは、難民キャンプで暮らす人たちに話しを聞いた。米国際開発局(USAID)の資金援助を受けた国際救済委員会(IRC)が運営するキャンプ内の病院が、業務停止命令を受けて突然閉鎖されたという。タイ当局と病院は、キャンプで暮らす住民に対応はしてきたが、人員や設備などには限りがあった。2月11日現在、IRCは活動を継続するための特例措置をまだ受けていない。
施設閉鎖による影響は立ち所にあらわれた。ウンピエンキャンプ住民によると、病院側の酸素不足で少なくとも4人が死亡したという。アムネスティはこの証言内容を確認することはできなかった。2月7日のロイター通信によると、IRCを通じて米国から資金提供を受けていた医療施設から自宅に送り返された女性(71歳)は、4日後に亡くなった。
また、ウンピエンキャンプの地域医療ボランティア(女性)によると、大統領令が発表された日、治療が必要な患者らが病院を出るように言われたという。女性は、スタッフが患者から点滴を外すのを目にし、適切な訓練を受けていない者が入院患者の傷を縫合しなければならなかったという。
住民によれば、キャンプでの給水サービスは中断され、援助も底をつきかけているという。
タイとミャンマーの国境沿いの9カ所の難民キャンプにと調理用燃料を提供している国境コンソーシアムの関係者は、「米国政府から救命上の例外措置を求めているが、まだ回答はない」と話した。
コンソーシアムの運営資金の6割以上は、米国国務省の人口・難民・移住局を通じて提供されている。資金の大部分は、食料と調理に必要な燃料や道具などに充てられている。活動の停止を指示されたわけではないが、対外援助見直しの一環として資金援助が打ち切られれば、4〜6週間後には食料資金が底をつくことになる。
食料ほど人を助ける援助はない。もし食料への資金援助を止めるなら、これは国境コンソーシアムだけの問題ではなく、国際的な人道問題に発展する。
「私たちにとって非常に厳しい日々」
2021年2月のクーデターでミャンマー国軍が権力を掌握して以来、全土で武力衝突が激化している。国軍は、空爆で民間人を殺害し、学校、病院、修道院を破壊した。国軍は、抗議する人たち、活動家、ジャーナリストらを標的にした。USAIDから資金援助を受けるミャンマー各地の市民団体は、民間人、ジャーナリスト、人権擁護者らが国を離れなければならない場合、避難所、援助、安全な避難先を見つける手助けをしてきた。
国軍による空爆被害が特に大きいミャンマー南東部の団体は、米国から資金援助を受けて、命を守るための支援活動をしている。最前線地域に移動医療ユニット(医療機器や医療スタッフを備えた移動式の医療設備)を提供し、高度な治療を提供する病院の紹介費用を助成し、空爆の余波を受けた市民が食料や避難所を見つけるのを支援する。
ミャンマー南東部の7つの地区で支援活動をするカレン保健福祉局の局長は、「空爆や爆撃、砲撃、避難が相次ぐ中、資金援助が止まった。私たちにとって厳しい日々が続いている」と話す。
生命を救う活動を例外としない
「民族医療システム強化グループ」の関係者によると、同団体は紛争の影響を受けた地域に携帯型のバッテリー充電式超音波診断装置とX線透視装置を届ける予定だったという。1セットでおよそ5万人に対応できる。しかし、大統領令を受けて、輸送費用の調達が厳しくなり、機器類は事務所の箱に入ったままだという。
別の地域医療の提供者は、「米国からの資金が止まると、緊急の救命治療ができなくなる」と話した。これまでも米国からの資金が、武力紛争による負傷時の緊急手術や新生児の緊急治療、虫垂炎の手術、輸血の費用に充てられていた。
1月末に例外措置が発表されたが、HIV、結核、マラリアの治療薬や、紛争で心的外傷を受けた人たちへの医薬品の支援も、支援停止で同様の影響を受けている。アムネスティの聞き取りでは、救命活動は例外扱いするという連絡や確認を受けたという団体は一つもなかった。紛争地域の人びとの食事や避難所、治療を支援する彼らの活動は、一時停止の例外対象とすべきことは明らかだったが。
いずれの団体も、「USAIDをはじめとする米国の機関やそのパートナー団体との意思疎通が不十分だ」と指摘する。ミャンマー国内で活動家の緊急避難を支援する海外イラワディ協会は、今回の支援の凍結で多数の活動家への支援ができなくなる」と話した。
ミャンマーで最も弱い立場にある人びとの保護活動をするこれらの団体の活動能力を奪うことで、米国は事実上、表現や情報の自由を弾圧する国軍にとてつもない贈り物を与えているようなものだ。
ミャンマーの人びとは現在、逮捕や暴力の危険にさらされ、タイに逃れて避難所の資金援助に頼る人びとはミャンマーに強制送還されるおそれが高まっている。米国は、ミャンマーで命を救う支援に取り組む団体がその活動を続けられるよう、直ちにかつ直接的に伝える必要がある。
アムネスティ国際ニュース
2025年2月13日
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