- 2025年1月29日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:南北アメリカ地域
- トピック:
第47代米大統領にドナルド・トランプ氏が就任したこと受け、アムネスティの南北アメリカ地域各支部の事務局長が、トランプ大統領の政策方針や、米国内外、特に南北アメリカ地域における人権への潜在的な脅威について懸念を表明した。また、米国新政権に対して、国際的な人権義務の再確認を促したが、世界が二極化する困難な環境の中で、人類が求める適切な対応が試されることになるかもしれない。
アムネスティは、すべての人の人権を守るという使命の下で、米国大統領が誰であろうと、これからも世界の何百万人もの人びとと手を携えて人権保護を追求していく。米国の政策が人権に与える影響は、アメリカ大陸や世界に大きく波及する可能性があるからだ。
難民・移民の権利
トランプ大統領は前政権時や直近の選挙運動で、最も弱い立場にある人びと、特に移民に対して、敵視発言を繰り返した。そし保護を必要とする人びとの状況を考慮せずに、何百万人もの移民を国外追放し、国境を閉鎖する計画を立てている。アムネスティの過去の調査で、大規模な国外追放は人びとの苦しみをさらに生み、地域の不安定化を招くだけであることが明らかになっている。
米国や南北アメリカのどこであれ、安全を求める人びとの人権や庇護を求める権利をないがしろにする傾向がある中、私たちは、このような対応が政策として採用された場合の危険性を、国際社会に警告しなければならない。国を問わず、身の安全とより良い生活を求める人びとを保護するという国際的な義務を無視することは許されない。
トランプ新政権がメキシコに対して国境管理や安全保障、軍動員で圧力をかける可能性がある中、アムネスティは引き続き、メキシコ政府に国際法の下での責任を果たすよう求めていく。
米国による非難がメキシコの政策に影響を与え、メキシコ国内で超法規的処刑や強制失踪などが増えるおそれがある。今後もアムネスティは、メキシコ政府に対し軍事化や「鉄拳」政策が人権上の義務に反することを訴えていく。
市民社会への脅威
南北アメリカの一部の国には、市民の活動や表現・結社の自由を攻撃する傾向があるが、トランプ大統領は、国としての統制を弱めるどころか、恣意的な権力の行使を煽るおそれがある。
ジャーナリスト、人権活動家、司法の独立性への攻撃は、政治姿勢に関係なく行われ、組織化された市民社会への明確な支持がない限り大陸全体に容易に広がるおそれがある。
アルゼンチン、エルサルバドル、パラグアイなどの右派を自認する政府から、メキシコ、ニカラグア、キューバ、ベネズエラなどの左派を自認する政府に至るまで、アムネスティは引き続き、市民社会と人権活動の保護を要求していく。
トランプ政権に対する懸念で高まっているのは、暴力のない生活を送る女性の権利と中絶を含む性と生殖に関する健康の権利の問題だ。これらの権利は、前トランプ政権でも批判を浴びた。
南北アメリカで女性やLGBTQI+の権利運動が勝ち取った成果を脅かす動きが強まっているが、これらの動きには、大陸の北の端から南の端までの強烈な抵抗と連帯が立ち向かうことになるだろう。
気候危機
気候危機は、今日の人権に対する最大の脅威の一つであり、世界中で飢餓、人道的危機、貧困、ホームレス化の危機に直面している。世界最大の経済大国で世界第2位の炭素排出国でもある米国は、温室効果ガスの排出を劇的に削減しない限り避けられない人権の大惨事を防ぐ上で、極めて重要な役割を担っている。
米国はパリ協定の下で、気候変動による大惨事を防ぐために自国の役割を果たす責任があったが、トランプ大統領は予想通り、パリ協定から脱退する決定を下した。この判断は人権への重大な攻撃である。
気候危機が人権に及ぼす影響は否定できず、早急な対応が求められている。南北アメリカのすべての国々は、環境保護活動家の保護から化石燃料からエネルギーへの公正な転換に至るまで、気候危機の最悪の事態を回避する責任を負わなければならない。すべての国ぐにが、気候危機に対する具体的な行動を要求している若者や先住民族コミュニティに、耳を傾ける必要がある。米国もその例外ではない。
この気候危機は、特にプエルトリコを含むカリブ海地域に影響を及ぼしている。トランプ大統領のプエルトリコに対するこれまでの対応を踏まえると、トランプ新政権がプエルトリコに対する排除、疎外、軽視の責任をどのように果たすのかについても深刻な懸念がある。
ハリケーン・マリアの直撃を受けた後、プエルトリコは前トランプ政権の無関心と切り捨てに苦しめられた。今回の政権で、気候リスクと脆弱性が拡大するのではないかという懸念が出ている。新政権には、過去に発生した災害に対する高いレベルの脆弱性と、地方政府の危機対応能力の低下を緩和するための予防措置を講じることが求められている。
気候危機とその影響に対処するには、各国の協力が不可欠だ。今年ブラジルのアマゾンでCOP30が開催されるが、米国も参加し、誠実かつ積極的に貢献しなければならない。米国と他の主要排出国は、その責任を果たし、気候危機の最悪の影響を防ぐための対応を取ることを約束しなければならない。
憎悪と差別
人権侵害は、権利の相互関連性と相互依存性があるため、個別的に切り離し、評価することはできない。現在の言説、社会・経済政策、地政学が、さまざまな文脈、国、地域において相互依存性を生み出す要因となっているからである。
国際協力は、人権の保護と保障において基本的な役割を果たしてきた。米国は、カリブ海諸国が主導する解決策を選択したこの地域の国々に加わり、人権に焦点を当てたハイチの安全保障に対する支援を継続する必要がある。
2025年は、ホンジュラス、ボリビア、エクアドル、カナダ、チリなどでも大統領選挙が実施される。南北アメリカ地域のアムネスティ各支部は、人権に反する過激で差別的な言説を避けるよう求め、人権義務の遵守を要求していく。米国はどの政党が政権を握っているかにかかわらず、西半球全体の人権を擁護する主導的な役割を果たすべきである。
長年にわたり、米国の政治的決定が地域レベルに影響を及ぼしていることを目の当たりにしてきたが、その影響はしばしば歓迎されないものだった。今後、アメリカ大陸全体の人権運動が地元の運動から支援を得て、また地元の運動を支援することで、憎悪と差別の拡散の防止に向けた相乗効果を発揮することが望まれる。
米国と最も長い国境を共有するカナダでも、今年、世論が大きく二分される中で選挙が実施される。
アムネスティ南北アメリカ支部は今後も、すべての当局や候補者が人権を尊重し、弱い立場にある個人やコミュニティを標的にしたメッセージがカナダ社会でまかり通ることがないよう求めていく。
米国の影響力は国境のみならず大陸さえも越える。トランプ大統領は間違いなく外交政策、武器貿易、多国間主義においてその足跡を残すだろう。彼の過去の対応と選挙公約から、米国内外の人権に対する多大な脅威が懸念される。世界最大の草の根人権団体として、アムネスティは人権を擁護し、すべての人のための公正、安全、健全な未来に向けて取り組む用意がある。私たちは単独より団結することでより大きな力を発揮できる。
アムネスティ国際ニュース
2025年1月21日
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