フィリピン:地域住民の健康と環境を脅かすニッケル採掘

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2025年1月 9日
[国際事務局発表ニュース]
国・地域:フィリピン
トピック:企業の社会的責任

世界で電気自動車の需要が拡大し、フィリピンではリチウムイオン電池に必要なニッケルの採掘が盛んになる中、先住民族や農村地域の人びとは、数多くの人権侵害にさらされている。

アムネスティは、電気自動車市場の世界的な需要拡大に伴う人権への影響について警鐘を鳴らしている。

ニッケルの採掘が盛んに進められる中、サンバレス州とパラワン州では先住民族の人びととの十分な協議と同意がないまま採掘が進められ、森林破壊、金属汚染、健康問題が起きている。これらの地域で採掘されたニッケルが、大手電気自動車企業のサプライチェーンに組み込まれている可能性が極めて高い。

先住民族や農村地域の人びとは、エネルギー転換のための鉱物資源の需要が急増する中、重い代償を支払っている。これらの地域の住民は、誤った説明や情報不足など重大な問題を抱えた協議プロセスに巻き込まれているだけでなく、採掘事業が引き起こす健康、生計、清潔な水への悪影響を耐え忍ばざるを得ない状況に置かれている。

アムネスティは、サンバレス州サンタクルスとパラワン島の先住民族の先祖伝来の地であるブルックスポイントの2つの地域で調査を実施した。サンタクルスでは4社が採掘事業を進め、ブルックズポイントでは、1社が操業中で、2社が採掘の準備段階にある。

いずれの地域でも、ニッケル採掘が関係する森林破壊や環境破壊により、住民は喘息、咳、呼吸困難、皮膚病、目や喉、肌の疾患などの健康被害を訴えた。また、淡水の水質悪化により漁業や農作物の収穫量が減っているという。

フィリピン政府は、環境汚染の実情を調査し、その結果が出るまでは採掘事業の継続を認めてはならない。また、事業者は事業を進めるにあたり、人権の保護を最優先にする必要がある。

電気自動車企業は、サプライチェーンの透明性の確保なくして、自社の車がフィリピンの人権や環境汚染と無関係だと断定するべきではない。また企業には、フィリピン産のニッケルと現地の環境問題との関連を調査し、その結果とリスク軽減措置を公表する必要がある。

アムネスティは、2023年9月から2024年10月にかけて現地調査を実施し、住民への聞き取り、現地訪問、開発関連の文書や裁判記録を閲覧した。企業側の主張も聞いた。

適正手続きと情報開示の問題

フィリピンの法律と国際法が開発地域の住民の保護を求めているにも関わらず、先住民族や農村地域の住民は、ニッケル採掘による人権や環境への影響についての十分な説明を受けていない。

現地住民に対するこれらの保護措置は、国に対し、採掘事業において地域社会と協議し、先住民族に影響を与える場合には、事前で十分な情報に基づいた自由意志による同意を得ることを求めている。今回の場合、地域住民にニッケル採掘による影響を十分に説明し、意見や不安を聞き、住民の意思を尊重することを意味する。

アムネスティが今回、2つの地域で調査を実施したが、聞き取りをした住民は、採掘による影響を知る上で必要な環境影響評価書などからの情報を得ることができなかったという。

アムネスティが環境への影響評価情報をオンライン上で確認できたのは、7件の事業のうち3件だけだった。開発企業と環境天然資源省に評価情報を求めたが、回答は得られなかった。

聞き取りをした住民によると、採掘に反対する住民は事前協議から外され、協議に参加してもプロジェクトについての不安を口にすると無視や軽視にあったという。住民の1人は、「担当者に見せられた地図はひどく見づらいため、知りたい情報を得られず、どのように対応すればいいかわからなかった」と話した。

ブルックスポイントでは、住民の同意を得る手続き上の問題で住民の間で対立が起きる中、1社は2年以上採掘を続け、もう1社は採掘許可を申請中だ。

自由意思による住民の同意を得るには、住民が企業からの事前の働きかけや強要、脅迫、報復のおそれがない状況にあることが大前提になる。しかし、聞き取りをした住民からは、企業から金品提供があったとの証言があった。

住民の1人は、「住民は金品をちらつかされて採掘に賛成している。会合があれば、採掘賛成派はすぐに案内状を受け取るが、私たちのように採掘の影響を受ける側への招待はない」と話した。

複数の住民は、「住民の自由意思に基づいて同意を得るという手続きは、先住民族の指導者やその意思を排除していて、自己決定権の侵害にあたる」と訴えた。一方、企業側はこれらの住民の主張を否定し、住民の意思に基づく同意の手続きは、規定に従って進めていると反論している。

企業には、自社に関わる人権侵害を特定し、防止するための適正評価を実施し、問題が発生する可能性があれば対応する責任がある。これらの一連の手続きの中で避けられない問題がある場合、企業は先住民族と協議の上、事業を中止すべきだ。

採掘企業、多国籍自動車企業、先進国の消費者の利益のために、フィリピンの先住民族や農村地域の人びとの人権、健康、環境を犠牲にするのは、もうやめるべきだ。

採掘事業が引き起こす潜在的被害に対して、電気自動車業界とバッテリーのサプライチェーン全体で、より高い責任が求められなければならない。

アムネスティ国際ニュース
2025年1月9日

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