- 2022年6月 2日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:米国
- トピック:難民と移民
米国の裁判所は5月20日、タイトル42(公衆衛生法の「伝染病の流入を阻止する緊急措置」条項)の廃止を否定する判断を示した。この判断は、南北アメリカ地域の身の安全を求める人びとの人権を無視するものだ。
2020年3月、当時のトランプ政権が新型コロナウイルス感染症対策を理由に、当局が審査や保護をせずに庇護希望者の国外退去を認めるタイトル42を復活させた。以来、数万人が母国に送還されてきた。米国で難民申請した人をメキシコに送り返して待機させる政策と併用され、庇護希望者は、米国とメキシコの国境沿いのキャンプに取り残され、今後さらに先行きが見えない状況に追い込まれる可能性が出ている。
タイトル42はこれまで、公衆衛生という薄皮をかぶった外国人嫌悪政策だった。条項廃止を否定する判断は、人権保護への取り返しがつかない打撃であり、米国法や国際法に反し、無数の命を危険にさらすおそれがある。米国が庇護を求める人びとの人権をまったく無視しているということを南北アメリカの国々に知らしめる決定であり、身の安全を求める人びとの権利を保護する上で恥ずべき前例を作ることにもなる。
バイデン政権が、タイトル42の永久撤廃を目指して法廷で闘っている中、米国議会は、タイトル42の廃止を先送りさせたり、同政策を恒久化したりするいかなる法案も阻止すべきだ。
一方、中南米諸国は、それぞれの国の難民申請手続きにおいて効果的かつ具体的に人権を尊重し、人びとを強制退去に追い込んでいる要因を取り除くことに、各国が協力して取り組むべきだ。
アムネスティは国際的な保護を必要とするさまざまな集団の人びとにタイトル42がどう影響を及ぼしているかを調査した。
ハイチ移民への影響
アムネスティは昨年12月、ジェンダー・難民研究センター、ハイチ・ブリッジ・アライアンス、ニューヨーク大学法学部グローバル・ジャスティス・クリニックなど6団体と共同で、ハイチの人びとがタイトル42で強制送還されたときに直面するリスクについて調査した。
調査の結果、米国は公衆衛生の名を借りて、定期的にタイトル42を濫用し、ハイチ人などの庇護希望者多数を送り返し、もしくは彼らの入国を拒否していることがわかった。米国の対応は、移民や庇護希望者を新型コロナ感染のリスクにさらし、米国の国境政策としての人種差別や外国人嫌悪、差別などを助長するとみられ、国連や公衆衛生の専門家、人権保護団体、さらに米政府関係者からの批判も受けている。
テキサスのデル・リオの国境で2021年9月、騎乗国境警察官が、ハイチ移民・庇護希望者に行き過ぎた力を行使した。背景には、全米の警察組織内に人種差別や反黒人の意識がある。一方、アムネスティが昨年10月に実施した調査では、メキシコやチリ、ブラジルといった中南米諸国でも移動中のハイチ人が保護されるどころか、拘束、国外退去、恐喝などを受けていることがわかった。
それぞれの国の不作為により、何十万人ものハイチ人が他国の保護を受けられず、安全な場所で生活を立て直すことができないでいる。
昨年始めから今日まで、多数のハイチ人が米国から強制送還され、深刻な危険に直面してきた。メキシコや他のカリブ諸国から強制退去されたハイチ人もいるが、その数は、米国に比べれば微々たるものだ。
保護者がいない子どもたちへの影響
昨年6月、アムネスティは、タイトル42の政策などで保護者のいない子ども数十万人が強制送還されたことを報告書で明らかにした。2020年3月から11月の間で、国土安全保障省は、少なくとも1万3000人の保護者のいない子どもたちにタイトル42を適用し、国外退去させている。
2020年11月中旬、連邦裁判所は米国政府に対し、子どもへのタイトル42の適用を暫定的に禁じる命令を出した。また2021年1月下旬には、バイデン大統領が、保護者のいない子どもに引き続きタイトル42を免除する大統領令を出した。
こういった例外措置が取られたことで、メキシコで危険と隣り合わせにいる家族の親が苦渋の決断をして自分たちは国に残り、子どもだけを米国に送り出す事例が多数発生し、大量の離散家族が生まれている。
アムネスティ国際ニュース
2022年5月23日
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