- 2021年10月21日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:
- トピック:表現の自由
オーストリアのエネルギー企業の子会社ケルコス・エネルギーは、環境活動家シュプレサ・ローシャイさんとアドリアティク・ガサフェリさんに対する名誉棄損訴訟を取り下げた。2人はコソボでの水力発電プロジェクトの環境への影響に懸念を示していた。
ケルコス・エネルギーは、訴訟を起こすことで、ダム建設で起こり得る環境破壊に声を上げる活動家を威嚇し、活動を封じようとした。訴訟取り下げは表現の自由の勝利だが、そもそも根拠のない訴訟は、行われるべきではなかった。
今回の訴訟は「スラップ訴訟」と呼ばれるものだ(strategic lawsuit against public participation: SLAPP)。政府や企業が人権活動家や権力者の不正を暴くジャーナリストを標的に、嫌がらせのために起こす訴訟で、口封じ訴訟、恫喝訴訟などとも称される。個人や企業の評判を守るためだと言うが、実際には、活動家を脅し、財政的・心理的に疲弊させるのが狙いだ。スラップ訴訟は、人権を守ろうと声を上げる人びとに大打撃を与え、表現の自由を危険にさらすおそれがある。
欧州連合(EU)は、スラップ訴訟対策に乗り出している。欧州委員会は法案提出を準備しており、欧州議会も来月、スラップ訴訟禁止令の発令を可能にする法案を採択する予定だ。コソボはEUに加盟していないが、EUの法令は、既存の加盟国、これから加盟しようとする国々にとって重要な基準となり、批判的な声を標的にすることはもはや許されないという明確なメッセージを世界中の企業に送ることになるだろう。
背景情報
2020年6月、ケルコス・エネルギーは、同社の発電事業に反対しているシュプレサ・ローシャイさんに対して名誉棄損の訴訟を起こし、彼女の反対運動で「風評被害」が生じたとして、10万ユーロの損害賠償を求めた。また、発言を公に撤回・謝罪すること、事実と異なる発言を今後はやめるようにも求めていた。
同じ年、フェイスブックで水力発電所の操業を批判した環境活動家のアドリアティク・ガサフェリさんに対しても、風評被害として1万ユーロの損害賠償訴訟を起こし、問題の投稿を削除し撤回を発表するよう、要求していた。
アムネスティ国際ニュース
2021年10月20日