- 2021年6月25日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:フィリピン
- トピック:
(C) NOEL CELIS/AFP/Getty Images
国際刑事裁判所(ICC)のベンスダ主任検察官は6月14日、フィリピンのドゥテルテ政権が主導する「麻薬戦争」での殺害が、人道に対する罪や拷問などの非人道的行為にあたる疑いに対する予備捜査を終え、本格捜査の承認をICCの判事らに求めていると発表した。
捜査対象には、大統領を含めた政府高官による扇動や奨励を受けた警察が行った超法規的処刑も入る。
ICCによる捜査が実現すれば、数千人の犠牲者家族に正義をもたらす画期的な一歩となる。同時に、ドゥテルテ大統領と同政権に扇動された警官による殺人に歯止めをかける上で欠かせない、遅まきながらの一歩でもある。
フィリピンでは、ドゥテルテ政権誕生以前から不処罰が社会問題になっていたが、2016年に同政権となり薬物犯罪撲滅作戦が始まって以降、問題が深刻化してきた。犯罪の疑いをかけられた数千人の市民が、警官に殺害される一方で、殺人を犯した警官はその責任を問われていない。
ICCがこの問題にメスを入れることは、不処罰の悪循環を断ち切る糸口となり、また、殺人の許可を与えた幹部や殺人を実行した警官に対し、「処罰は免れない」との警告を発することになる。
ドゥテルテ政策下では、政府高官による国家公認の殺人と暴力の扇動が、常態化している。頻発する殺人と不処罰に関して政権が果たした役割を考えると、ICCの捜査は、正義を果たす上で極めて重要な一歩だ。
ICCの捜査が迅速に進むよう、すべての国は、ICC検察局に全面的に協力しなければならない。フィリピン当局、人権団体、その他関係者は、証拠の保全を徹底し、ICCは捜査協力者の身の安全を保障しなければならない。
非情な殺人 人道に対する罪に相当
ICCは2018年2月、フィリピンの警官による殺人に対し人道に対する罪などの疑いがあるとして、予備捜査を開始した。ドゥテルテ大統領は予備捜査に反発し、翌年、フィリピンはICCから脱退した。ただ、捜査の権限は認めた。
2016年の政権発足以来、ドゥテルテ政権が主導する「麻薬戦争」下での取り締まりで、数千人の市民が犠牲になった。犠牲者の多くは、貧困地域の人たちだ。
アムネスティは独自調査で、警察とその上層部が超法規的処刑をはじめとする人権侵害を行っていることを明らかにし、こうした人権侵害が人道に対する罪に相当するものだと断定した。殺人は今も続いている。
国連も行動を起こすべき
「麻薬戦争」は、国際社会や国内外の人権団体からの強い非難を受けた。しかし、ドゥテルテ大統領は批判を顧みることなく、警官にあからさまに殺害を奨励し、処罰しないことを約束した。殺害を指示した警察幹部は、責任を問われるどころか、出世する始末だった。
人道に対する罪の申し立てに対し捜査をする義務は、本来はフィリピン政府にある。しかし政府は、その義務を果してこなかった。
ICCの検察官が捜査に入れば、残忍な取り締まりを主導してきたドゥテルテ大統領や警察幹部が捜査対象になることは確実だ。ICCによる捜査に加え、国連人権理事会をはじめとする国際社会も、多数の犠牲者を出した責任の所在を明らかにするよう、政権への圧力を強めなければならない。
国連人権理事会は、「麻薬戦争」での行為を含め、ドゥテルテ政権下で行われてきた国際法上の犯罪やその他の人権侵害に対する調査を開始しなければならない。そして、これらの犯罪の実行者・指示者の責任を問うべきだ。
国連人権理事会がフィリピンでの事態に対処していないことに、アムネスティをはじめとする市民団体は、繰り返し懸念を表してきた。国連人権理事会は今こそ行動を起こし、「フィリピン政府が人権侵害を不問にしていることは、もはや許されない」というメッセージを送らなければならない。
アムネスティ国際ニュース
2021年6月14日
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