- 2016年4月15日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:シリア
- トピック:地域紛争
4月11日にジュネーブで和平協議が再開された。シリアでは戦闘行為も減っている。5年間続く紛争の平和的解決に向けた重要な一歩が踏み出せるかもしれない。街に銃声が響き、市民が殺傷に巻き込まれる悲惨な状況に、きっぱり終止符を打つことを、誰もが望んでいる。
シリアでは戦争犯罪や人道に対する罪、虐待などの罪が問われてこなかった。どのような合意に至ろうと、司法の正義と真実の解明、補償がその中核となることが極めて重要である。犯罪を命令した者、実行した者、許可した者は、裁きを受けなければならない。しかし、この重要な点が、ジュネーブ会議では議題にのぼらず、政治的な利害の中に埋もれてしまうことが懸念される。
シリアの紛争の犠牲者に対する司法の不在は、明らかである。同国の司法はほとんどの場合、政権、治安部隊、情報機関に隷属してきた。この5年間、市民数万人が裁判もなく拘禁され、数千人が拘禁中に死亡した。
放置される不処罰
紛争が始まった当初から、深刻な人権侵害とその加害者は、裁かれてこなかった。少なくとも65カ国の国際団体が、さらに国連事務総長自身も、繰り返し要請していたにもかかわらず、国連安全保障理事会は、捜査を国際刑事裁判所に付託しなかった。国際刑事裁判所が動けば、戦争犯罪や人道に対する犯罪行為を命じる指揮官への強力な警告となったであろうに。
安保理は、ルワンダやユーゴスラビアの紛争の時のように、暫定的国際刑事法廷を設置することもできたが、今となっては実現性は薄い。シエラレオネやカンボジアのように、国内法で裁く特別法廷を設けることも選択肢としてはあるが、これも無理であろう。近隣諸国で国際刑事法廷を設置することも考えられるが、紛争に直接関係する国が多いため、難しい。
現実的な策としては、シリアや近隣諸国以外の当局が、国際法上の犯罪に対する普遍的管轄権、域外管轄権を行使するしかない。
シリアから多くの難民が流入している今、残虐行為の証言を得て、捜査と容疑者の訴追に道を開くことができる。
残虐行為に対応する第一歩
現在、少なくとも166カ国が、少なくとも一つの国際法上の犯罪(戦争犯罪など)に普遍的管轄権を行使することが可能だ。被害者や加害者の国籍は、問われない。最近の事例では、ドイツ、スウェーデン、フランスが、シリアでの国際犯罪が疑われる行為に対し捜査を開始した。今年1月にはシリア人男性1人が、国連監視団員拉致に絡み戦争犯罪の容疑で、ドイツで逮捕された。スウェーデンでは、庇護希望者の1人がシリアの戦争犯罪容疑で出廷し、フランスでも庇護希望者が反政府勢力の殺害に加担した容疑で取調べを受けている。
拷問等禁止条約、強制失踪条約を批准した国は、外国にいる自国民が犯したとされる犯罪に司法管轄権を行使する義務がある。
これらの国々の動きは、一つひとつはわずかだが、国際社会が正義を果す上で、大きな意義がある。しかし、扱われる犯罪や対象となる個人の存在は、数多くの大規模な殺害や虐待、そしてそれらが不処罰のままであることからすると、あまりにも影が薄い。
シリアで起きた重大な人権侵害の大部分は政権側の手によるものだが、その容疑者たちが国外に移動することはないだろうと思われがちだ。しかしこれからは、考えを変えたほうがいいだろう。そして捜査と裁判を行う能力と責任がある国は、迅速な対応に向けた準備をしておくべきだ。
シリアではびこる不正義と不処罰の甚大さを考えれば、正義と真実、補償の実現に向けた対応は、いずれ始めなければならない。そして対応する機会があれば、それを見逃すことなく行動を起こさなければならない。
アムネスティ国際ニュース
2016年4月11日
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