- 2012年12月 7日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:大韓民国
- トピック:
パク・ジュングンがツイッターに投稿した、北朝鮮の兵士の風刺画。この投稿で、彼は10ヶ月の懲役を言い渡された。(C)AI
「議論を封じ込める」という政治的な動機で、国家治安維持法を乱用するケースが、韓国で劇的に増加している。
国家検察局が発表した数字によると、国家治安維持法(NSL)違反の疑いで起訴された件数は、2008年の46件から2011年の90件と、95.6%上昇した。
大多数はネット上に北朝鮮に好意的なコンテンツを載せたという容疑である。その容疑で閉鎖されたウェブサイトは、2009年の18件から、2011年10月までに178件に増えた。
この報告によると、当局はNSLを乱用し正当な理由もなく、個人の公私にわたる生活を侵害することがますます増えていることがよくわかる。
「治安の維持」が「権力の乱用」に
この法律の条文があいまいであるため、政府、とくに北朝鮮に関する政策に、批判的な個人やグループが、恣意的に標的にされる。
ソーシャルメディアを使って北朝鮮のようなテーマについて議論する人びとは、強制調査や起訴を受ける危険がますます高まっている。
NSLは政府を批判する人たちを摘発する建前として使われており、摘発の対象となった人びとに深刻な結果を招いている。
だれも市民社会の治安を守る韓国の権利を否定しない。しかしNSLの恣意的な拡大解釈で行われているのは、治安の維持ではなく権力の乱用だ。そのような乱用は止めなければならない。
アムネスティは間近に迫った大統領選挙の全候補者に対し、NSLの廃止または国際基準に沿った抜本的改定を公約とするように文書で要求した。
国連は1992年から韓国にNSL改正の要求をしている。
法律の不当な適用
政府は何十年ものあいだ、北朝鮮を支持する人びとに対し、NSLを恣意的に適用してきた。現在もその状態は続いている。
しかし、今回の発表では、最近NSLが北朝鮮支持とも言えない個人やグループに対してもますます使われるようになってきたことがよくわかる。
この傾向は公の議論の機会を抑えこもうとする試みであり、この国の表現の自由や結社の自由を著しく侵害するものである。
近年、NSLは政治的あるいは学術的議論を制限し、公的調査に対する批判を抑制するために利用されてきた。
NSLの条文は定義があいまいで、警察や治安部隊によって乱用されやすい。最も問題とされるのは第7条の「反政府組織の活動を賛美、奨励、あるいは普及させる」者は何人も、最高7年までの禁固刑に処すという条文である。
裁判所はNSLを根拠とした検察の拘禁申請の多くを退けてはいるものの、その適用例は増加している。
「ジョーク」で禁固刑
報告が取り上げた一例は、当局がネット上の議論を封じる目的で標的にしたパク・ジュングン(24歳)のケースだ。11月21日、彼はスウォン地方裁判所で執行猶予2年、禁固刑10カ月の判決を受けた。パクは控訴すると思われる。
パクはアムネスティに「私は北朝鮮のアカウントからのツイッターをリツイートしただけだ。ジョークで北朝鮮の指導者を風刺したかったのだ」と語った。
2011年10月の捜索令状には「パク・ジュンギョンはソーシャルネットワークツールのツイッターを効果的な思想の宣伝に用いた」と記されている。11月21日の判決では、判事はパクのツイート数件は悪ふざけだと認定したが、彼の行動は全般的には「反国家的組織体を支持し補強する」と判断した。
しかし、パク・ジュンギョンは北朝鮮のシンパではない。彼は北朝鮮に非常に批判的な社会党の党員である。
警察は5回にわたりパクの政治的信条を尋問し、ツイッターが北朝鮮の強力なプロパガンダの道具であることが分かっているかと質問した。尋問は毎回5時間に及んだ。
パクは、「北朝鮮の共産主義に反対だが、北朝鮮の文化には興味を持っている。自分にはそれを知り、自由に表現する権利がある」と語っている。
パクは過酷なNSL捜査の標的となり、自分の脳が国家の所有物になったように感じているという。
一連の取調べで彼は心身ともに疲弊し、眠れず、高い緊張状態にあり、ストレスに対する治療を必要としている。
虐待の疑いもある
書店経営者のキム・ミョンスーは今年2月、「不適切な」本を所持・販売してNSLに違反したとして、執行猶2年、禁固刑6カ月に処された。
5年にわたる捜査と裁判で、ギョンギ地方警察の情報機関(ボアン・スサデ)は、北朝鮮、マルキシズム、社会主義に関する本、または「革命」がタイトルに含まれる本に異議を唱えた。
これらの本はすべて国会図書館に所蔵されており、大手書店で販売されている。しかし、裁判所は、これらの本を所持・販売することでキムは「国家の存在と治安を危険に陥れる」意思があったと断定した。
またNSL違反の疑いで拘禁される人びとは、当局によって虐待を受けていると、その家族がアムネスティに証言した。
アムネスティは政府に対して、これらの申し立てについて迅速かつ独立した透明性のある捜査を行うように要求している。
アムネスティ国際配信ニュース
2012年11月28日
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