- 2011年3月16日
- 国・地域:ネパール
- トピック:先住民族/少数民族
2008年以降、ネパール政府は、チベット社会がお祝いをする記念日やお祭りの期間中における、正当で平和的な表現や集会の権利を否定するような抗議行動や移動の自由に対する予防的な逮捕や警察による規制を行っている。
「これまで中国政府はネパール政府に対し、チベット人に抗議行動を行わせないよう、強い圧力をかけてきました」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア部長、ブラッド・アダムスは述べた。「中国政府の要請に応じようと、ネパール政府は事実上すべてのチベット人の集会を禁止し、それにより彼らの移動の自由を侵害してきたことを見て取ることができるのです。」
ネパール当局は、すでに3月第2週、チベット人社会を黙らせるために、これまでと同じような手段を使い始めた。2011年3月8日の朝、ロサー(チベットの正月)のお祝いに、仏教徒の巡礼地であるカブレ郡にあるナモブッダへ行こうとする約30人のチベット人と見られる一団が、警察に阻止された。おもに年配の女性と子供たちから成る一団で、彼らはラリトプルのエカンタクナにあるチベット人難民センターから自分たちを乗せてくれるバスを手配していた。しかし、警察はその一団がバスに乗ることを許さなかった。彼らがなぜ足止めされているのかと聞いたところ、警察は「内務省からの命令によるものだ」と答えた。何の法的根拠も示されなかった。このような個人の移動の自由に対する制限は、不当であり、国内法にも国際法にも違反している。
こうした抗議行動は、ネパールの「一つの中国」政策に反するとネパール政府は主張している。しかし、ネパール政府はこの政策の遂行を理由に国内的・国際的法律上の義務を怠ることはできない。中国当局に配慮して、ネパール政府は、チベット人が重要な巡礼を行うなどしてロサーを祝っている時期に、チベット人グループの移動を全面的に禁止するまでにいたった。
ネパールの社会治安法(第3条1項)が、デモを企てていると思われる個人を予防的に拘束することを正当化するために使われてきた。これは、恣意的な逮捕や拘禁に対する国際法上の禁止に違反する。このような予防拘禁の命令は、暫定憲法の25条に定められた要件を満たしていないという裁定をネパールの最高裁は一度ならず下している。
「大雑把に定義された法律を適用して、あいまいな根拠に基づいて個人を拘禁することは、こうした逮捕がいかに不当なものかを際立たせるだけです」と国際法律家委員会のアジア・太平洋部長、ロジャー・ノーマンドは語り、「しばしば、警察が人びとを明確な罪で起訴できず、裁判にかけることもできずにいるという事実は、そもそもそうした犯罪に対する十分な証拠がないことを示しています」と続けた。
チベット人がバスや車から連れ出される検問所を多用することや、ボダナード仏舎利塔周辺に見られるような、広範な治安区域を設置することは、人種や政治的信条に基づいた、差別的な法の適用と解釈でき、自由権規約の第2条1項と第26条に違反する可能性があると三団体は語った。
「近年ネパールのチベット人に課せられてきた制限は、再び繰り返されてはならりません」とアムネスティのアジア太平洋プログラム副部長、マドゥ・マルホトラは語り、「一つの民族社会だけを選び出すことには、差別を感じる。この政策を続ければ、ネパール政府の人権の歴史に汚点を残すことになるでしょう」 と続けた。
アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国際法律家委員会は、ネパール政府が、公共の安全や治安への脅威に対処するため、不穏な地域への立ち入りを法に基づき制限する場合があるのは認めるが、抗議参加者や民衆を危険から守るのに明らかに必要な程度に制限を限定するべきであると当局に訴える。
今年のチベット人蜂起の記念日は、チベット社会の指導者たちと事前協議を行うなどの、適切な手段を講じることで、現ネパール政府が、警察とデモの参加者の深刻な衝突を避ける絶好の機会である、と三団体は語った。そのようなな手段を講じれば、不必要な制限無しで、自らの意見を表明したい人が平和裏に意見を表明できるようになるだろう。
■背景情報
2011年3月10日は、ダライ・ラマがインドへ亡命することになった、未遂に終わった1959年のチベット人蜂起の記念日である。2008年、中国に住むチベット人たちが概ね平和的な抗議行動を各地で起したのは、この日を記念するものだった。これに続く取締りにおいて、中国当局は様ざまな人権侵害を犯した。
さらに詳しい情報は、アムネスティ・インターナショナルの報告書、「チベット自治区:立ち入り拒否」(英文)を参照してください。
http://www.amnesty.org/en/library/info/ASA17/085/2008/en
アムネスティ・インターナショナルのチベットに関する最新の文書(英文)に関しては、以下を参照してください。
チベット人の、良心の囚人であり、僧侶であったジグメ・ギャツォは、拷問と虐待の結果、重病であると考えられている。
http://www.amnesty.org/en/library/info/ASA17/002/2011/en
トンドゥプ・ワンチェンは、チベットにおけるチベット人の人権に対する考えを明らかにした「恐怖を乗り越えて」というドキュメンタリーを制作したことで投獄されている(英文)。
http://www.amnesty.org/en/appeals-for-action/call-china-release-tibetan-film-maker
アムネスティ発表国際ニュース
2011年3月9日
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