- 2010年11月26日
- 国・地域:ハンガリー
- トピック:先住民族/少数民族
ハンガリーにおけるロマに対する暴力的な襲撃は、人種的な動機に基づいた犯罪が、どれだけ個々の被害者・共同体、そして社会全体に対して影響を与えるかを示している。この襲撃はまた、ハンガリーの司法制度の問題点によって、どれだけこうした襲撃の予防と対応が妨げられているか、ということも示している。
「恐怖感は他の村落や他郡にまで広がっています。ロマはどこにいても恐怖に駆られ、警察ですら自分たちを守れない、と感じています」
~キスレタのロマがアムネスティ・インターナショナルに述べた言葉~
2008年1月から2009年8月にかけて、ハンガリーにおいてロマが火炎瓶・銃撃による一連の攻撃にさらされ、6名が死亡した。被害者の中には、40代の夫婦、老人、父親とその4歳の息子、そして13歳の娘を持つシングルマザーが含まれる。
「ハンガリー当局には、差別を防止し、憎悪犯罪の被害者に訴訟手続きを保証する義務があります。この義務には、人種的・民族的憎悪あるいは偏見が、これらや類似の攻撃の一因となっているかどうかを調べる義務が含まれます」とヨーロッパ・中央アジア部部長のニコラ・ダックワースは述べる。
「人種差別主義や人種間暴力に立ち向かうことで、当局は、多様性というものが脅威と認識されてはならないという重要なメッセージを送ることになります。当局は、人種差別主義は許容されないのだという明確なメッセージを送らなくてはなりません。」
ハンガリー法は、憎悪や人種主義的犯罪の扇動を刑事罰の対象にしている。しかしながら、人種主義的な動機に基づいた襲撃の罪による起訴・有罪判決の数は、NGOが照合したこれら襲撃の報告数と比べた場合、少ないように見える。
ハンガリー警察によれば、ロマのコミュニティを対象にした人種主義的動機に基づく襲撃は、2008年には12回、2009年には6回発生したという。しかしながらNGOは、2008年には17回、2009年には25回であったと記録している。
この差は、憎悪犯罪の報告数が実際より少ないことに起因する。つまり、被害者が恐怖のために申し出ないことや、警察や検察官が犯罪の人種主義的な動機を考慮に入れないことによる。
アムネスティのインタビューを受けた多くのロマの被害者はトラウマを抱えている。また彼らは、支援事業の存在や、どのようにしてそうした援助を受けられるのかを知らない。
「人種主義的な動機に基づく犯罪を記録せず、調査せず、起訴せず、罰さないこと、そして被害者に救済策を提供しないことは、ハンガリーのロマのコミュニティを失望させています」とニコラ・ダックワースは述べた。
「政府は国際法の下、差別に立ち向かうことを義務付けられています。その中核が、憎悪犯罪の存在・程度に関する情報を照合することなのです。」
アムネスティはハンガリー当局に対し、以下の事柄も要求する。
・ロマのコミュニティの構成員ならびに他の襲撃対象になりやすいグループの構成員が、暴力から保護されることを保証すること
・警察官および検察官が、憎悪犯罪の性質および憎悪犯罪に立ち向かう際の警察の役割について、訓練を受けることを保証すること
・ロマの自治政府、NGO、人権団体とともに、ロマの人びとが憎悪犯罪を報告するよう奨励し、被害者が、司法制度利用・リハビリ・補償といった救済策を利用できるよう保証すること
事例1
2009年2月23日の早朝、27才のロバート・Cs、および彼の4歳の息子が銃撃により殺害された。彼らは、ペスト郡タターゼンギョルギー村の、火炎瓶によって放火された家から逃げようとしたところで銃撃された。銃撃音が聞かれているにも関わらず、警察の初期調査は、この事案を事故扱いにした。当時ヨーロッパ議会議員だったヴィクトリア・モハシの介入によってようやく、火炎瓶として使われた瓶、散弾、そして銃のカートリッジが見つかった。
警察の調書は、ロバートと彼の息子が銃撃により死亡したと確認する検死の後に変更された。独立警察苦情委員会は、警察が殺人を憎悪犯罪として扱わなかったことが、調査を著しく妨げ、その結果被害者の権利を侵害した、と結論づけた。
事例2
2008年6月15日、14才のロマの少年K.H、および彼の従兄弟F.Nが、フェンイエスリトク村のパブで、口論の後に40才の男性にナイフで刺された。
判決文書によれば、この男性は、バーで立っているとき、F.Nが彼に背を向けたことに怒り、被害者たちと口論を始めた。K.HとF.Nはバーを立ち去ることに決めた。彼らがドアに辿りついたとき、K.Hは次のように言ったとされる。「何か望むなら、外に出ましょう」。男性は刃渡り11cm、幅2.5cmのポケットナイフを取り出し、K.Hの胸部を三度刺した。それからF.Nの胸部も刺し、逃走した。K.Hは刺し傷のため犯行現場で死亡し、F.Nは致命傷を負った。
K.HとF.Nの家族は、調査の間十分な助言と支援を得られなかったとされる。K.Hの家族の法定代理人は、調査中、人種主義的な動機が追及されなかったと主張している。被害者の法定代理人はアムネスティに対し、加害者が「どのロマも自分に背中を見せるべきではない。だから犯罪を遂行するのだ」と述べているのを聞いた、と主張する二人の目撃者を見つけた、と伝えている。
背景情報
ハンガリーのロマは貧困によって激しい影響を受けている。貧困率はロマではない人びとの7倍に上る。
ロマの人びとは、教育、住宅供給、雇用への権利において、排斥され、差別を受ける。ロマ人の子供はしばしば、精神的障害を抱えた子どものための特別教育を受けさせられたり、他と区別されたロマのみのクラスや学校に隔離される。
また、地域当局による、ロマの家庭に対する差別的規則や慣行が、ロマの社会住宅利用を妨げている。ロマの失業率は70%と推定されるが、この数字は全国平均の10倍以上である。
アムネスティ発表国際ニュース
2010年11月10日
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