- 2007年5月30日
- 国・地域:リトアニア
- トピック:性的指向と性自認
2007年5月21日、首都ビリニュスのユオザス・インブラサス市長は、EUが後援する反差別トラック・ツアーに許可を出さなかった。このトラック・ツアーは、現在EU加盟の19カ国を巡回中で、広報キャンペーン「多様性に支持を、差別に反対を」の一貫として行われているものである。今週金曜日にビリニュスで行われる予定だった企画は中止となった。このバス・ツアーの目的は、EUの「多様性に支持を、差別に反対を」キャンペーンと「万人のための欧州機会均等年」に対する意識を喚起し、情報を提供することである。また、ビリニュス市議会も、全会一致で、5月25日に予定されていた多様性キャンペーン集会を、「治安上の理由」で禁止を決議した。5月25日に開催が予定されていたLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)を含む、様ざまな人びとの人権を支援しようという集会について、ビリニュス市議会は「治安上の理由」からこれを禁止する決議を全会一致で可決した。欧州委員会はこの禁止に対し、「今回の市当局の決定は、被差別集団に対する言動を変えさせ、多様性に対する意識を向上させるためには、未だ、取り組むべきことがいかに多いかを示している」と述べている。
地元のバス運転手たちはLGBTの権利を支援する広告が掲載されたバスを運転しないとの取り決めをしたが、ビリニュス市長はこれを支持している。市長は、「我々は、伝統的な家族のあり方を優先し、伝統的家族の価値観を推進している。このビリニュスの街に『同性愛の概念』を公に掲示することは認めない」と表明した。この広告は、リトアニア・ゲイ・リーグが費用を支払ったものだが、EUからの補助を受けている。
表現の自由、平和的な結社と集会の自由の権利は、リトアニアも締約国であるところの市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)や人権および基本的自由を守るための欧州条約(欧州人権条約)をはじめ、多くの人権条約で認められている。表現の自由、平和的な結社・集会の自由の権利は絶対的権利ではないとはいえ、これらの権利を制限する場合は法律で定めなければならず、必要かつ国際法上正当とされる目的に応じたものでなければならない。国際人権法上、たとえ平和的な集会が暴力的な反対デモを誘引する可能性があるとしても、国家には平和的な集会の権利を保護する義務がある。言い換えれば、デモが押し進めようとする考えや要求に対して人びとが苛立ちや怒りを抱くことがある場合でも、デモ参加者は、その考えに敵対する人びとや集団からの物理的な暴力にさらされる恐れを感じることなく、デモを実施できなければならない。
欧州で近年、LGBTの人びとへの差別や集会の自由への権利侵害が生じていることに、先ごろ欧州議会は深い懸念を表わした。2007年4月26日、欧州議会は、欧州における同性愛への嫌悪を非難する決議を発表し、LGBTの人びとの人権擁護を強化するよう加盟国に求めた。2007年5月10日、欧州議会の26カ国は中欧および東欧の首都や主要都市の首長に向けて連署した公開書簡を送り、LGBTの人びとの誇りと平等のための行進を、「平和的なデモであり、欧州の多様性に寛容でその真価を認めるひとつのヨーロッパという概念の中核原理に訴えるものである」とした。さらにLGBTのデモや集会の主催者を支援し、デモ参加者に危害を与えようとする人びとから彼らを守り、主催者に行政手続上の障害を設けないなど、東・中欧諸国の政府がこうした問題に全力で取り組むよう求めた。
アムネスティは、リトアニア政府に対し、同国内のレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人びとに対して、改めてイベントを開催する機会を提供するとともに、イベント開催中は参加者や主催者を保護するために十分な警察配備を行うよう要請した。さらにアムネスティは、あらゆる人びとに対して平和的な集会の自由の権利を尊重するよう同国当局に求めるとともに、性的指向や性的アイデンティティに基づく差別を受けない権利を尊重し、リトアニア国内の多様性の尊重を積極的に推進するよう求めた。これまでもアムネスティ・インターナショナルはラトビア、ポーランド、ロシアの政府に対して同様の要請をしてきており、これらの国ぐにの政府高官が同性愛を嫌悪する差別用語を口にするなか、LGBTの人びとに不寛容な風潮を助長し、LGBT団体の主催による公共的なイベントを妨害していることに対して懸念を表明してきている。
AI Index: EUR 53/001/2007
30 May 2007
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