- 2006年2月 1日
- 国・地域:米国
- トピック:死刑廃止
報告書では、精神障害を持つ人びとが直面する制度上の問題点に焦点をあて、1977年以降に処刑された100人(全死刑執行数の1割)の重度の精神障害を持つ犯罪者のケースを掲載した。
報告書は保健と刑事司法の両制度にはびこる制度上の欠陥をあげて、精神障害を持つ死刑囚の現在の劣悪な状況にも焦点を当てている。米国国立精神保健協会によれば、現在全米で約3400人いる死刑囚のうち5パーセントから10パーセントが精神障害者であるという。
「重度の精神障害に苦しむ人びとを処刑するという残虐かつ非人道的な行為は、あまりにも長い間見過ごされてきました。無知と偏見が恐怖をうみ、精神障害を治療するという真の解決方法をみつけるよりも、死刑にするほうが多くの人びとにとって簡単なのです。」と米国アムネスティのプログラムディレクター、スーザン・リー氏は述べた。
その実例が、1992年に義理の両親を殺害して1995年にテキサス州で死刑判決を受けたスコット・パネッティの事件である。彼は統合失調症を含む精神障害で長い入院歴があり、幻聴および幻覚があった。
カウボーイの服装で自分自身の弁護をおこなったパネッティは、犯行現場から立ち去る時、悪魔が自分を嘲笑したと法廷で述べた。
裁判に出廷した医師の一人は、「パネッティは自分の言動のもたらす効果にまったく無自覚だった。陪審員たちは敵意と不信の目でパネッティが意味不明の話をするのを見ていた...」と語った。
パネッティは今も死刑囚監房にいる。
2002年6月、米連邦最高裁は知的障害(米国では「学習障害」ではなく「知的障害」という語が用いられる)を持つ人びとに対する死刑を違憲とした。その理由は、知的障害のため過失責任が少ないということと、こうした人びとに対する死刑の抑止効果に疑問があることであった。
「知的障害と精神障害は同じではありませんが、類似した行動をすることがあります。精神障害の人びとは妄想を信じ込み、不合理な考えにとらわれたり衝動で行動したりします。知的障害を持つ人びとが死刑を除外されているのに、重度の精神障害を持つ人びとがそうでないのは大きな矛盾です。」とスーザン・リー氏は述べた。
「死刑はとても政治的な刑罰です。(精神障害を持つ犯罪者の死刑のみならず、すべての)死刑が暴力犯罪に対する建設的な解決策であるというはっきりした証拠を、政治家は有権者に対して、あまりにも長い間、示してきませんでした。」
今回の報告書によれば、スコット・パネッティのケースは、精神障害を持つ人びとが死刑判決を受け、執行されている状況をよくあらわしているという。
多くのケースでは、精神障害を持つ人びとは自分に対する起訴の内容や犯した罪の重大性を理解できない。また、裁判のため被告人に大量の薬が投与されるため、陪審に悔悟の念がないとみなされるケースもある。悔悟の念がないということは、陪審が死刑を適用するかどうかを決める際に非常に不利な要因となる。
処刑に「適格」にするために無理に薬を服用させられた被告人さえいる。
アムネスティはすべての米国当局に対し、精神障害を持つ人びとに対する死刑の適用を今すぐに禁止し、破綻した死刑制度をきっぱりと終わらせるよう求める。さらに、精神障害を持つ人びとが助けを求めた時には必ず対応し、もっとも必要とする人びとが適切な治療を受けられるよう、あらゆる立場の官僚が保証しなければならない。
189ページにおよぶ報告書「米国:精神障害を持つ犯罪者の処刑」は、
http://web.amnesty.org/library/indexAMR510032006
報告書概要(43ページ)は、
http://web.amnesty.org/library/indexAMR510022006
アムネスティの死刑廃止活動に関する情報は、
http://web.amnesty.org/pages/deathpenalty-index-eng
アムネスティ発表国際ニュース
(2006年1月31日)
AI Index: AMR51/018/2006
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