世界の動向(2025年4月14日更新)
アムネスティの調査によれば、世界の死刑執行数は急増した一方で、死刑執行国数は前年に引き続き過去最低となったことが明らかになった。
2024 年の世界の総執行数は前年比32%増で、2015 年以降で最も多い年になった。急増の大きな要因 には、特にイラン、イラク、サウジアラビアの3 カ国での執行数の増加がある。
この総数には、中国で執行されたとされる数千人の処刑は含まれていない。中国は依然として世界の主要な死刑執行国であり、北朝鮮やベトナムなど情報の開示が制限されている国々も処刑を頻繁に行っていると考えられる。
2024 年も、複数の国が国民の支配と異論封じの手段として死刑を利用し、特に人権擁護者、抗議者、反体制派、政治的対立者を標的にした。また、死刑の適用は、少数民族や宗教的少数派、社会経済的に恵まれない層に偏っていた。
例えば、イランでは、2022 年9 月から12 月にかけて「女性、命、自由」を訴えるデモがあったが、当局は、イスラム共和国の体制やその政治的・宗教的イデオロギーに異議を唱えた、あるいは異議を唱えたとみなした個人に死刑を言い渡した。サウジアラビア当局は、2011 年から2013 年まで続いた反政府デモを支持したシーア派少数派の市民に対して、政治的な異議を封じるために死刑を武器として使い続けた。広義に定義された「安全保障」やテロ関連の犯罪に対する死刑の使用は、いくつかの国々で顕著だった。
死刑が犯罪を抑止するという誤った認識も、犯罪者を人間扱いしない危険な考えを推し進め続けた。3月、国内の武力紛争が激化するコンゴ民主共和国の司法大臣が、軍内の「反逆者」を抑制するためだと死刑執行の再開決定を発表した。また、ブルキナファソの軍当局は、治安に懸念があるとして、2018 年に刑法から廃止された通常犯罪に対する死刑を復活する計画を明らかにした。米国のドナルド・トランプ次期大統領は、2025 年1 月の大統領就任を控え、「暴力的な強かん犯、殺人者、モンスター」から市民を守る手段として、繰り返し死刑に言及した。
いくつかの国々では、薬物の使用や販売を撲滅するために、懲罰として死刑を推進するという誤った対策を取った。国際人権法・基準は死刑の適用を「最も重大な犯罪」に制限するよう求めているが、薬物関連犯罪はこれには該当しない。また、薬物犯罪での死刑の適用は少数派や社会経済的弱者に引き続き偏っている。2024 年に記録された死刑執行のうち42%が薬物関連犯罪によるもので、中国、イラン、シンガポール、サウジアラビアの4 カ国で行われた。モルディブ、ナイジェリア、トンガなどでは、薬物関連の犯罪に対して死刑の導入が検討されている。


こうした状況ではあるものの、2024 年の動向は死刑の適用がごく一部の少数派であることを示している。2 年連続で死刑が執行された国の数は、過去最低の15 カ国にとどまった。
12 月31 日、ジンバブエのエマーソン・ムナンガグワ大統領は、通常犯罪に対する死刑を廃止する法案に署名した。同月初めには、2023 年に死刑を完全に廃止したザンビアが、「市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2 選択議定書」(死刑廃止条約)に加入し、死刑廃止を不可逆的なものにした。またアフリカ人権・人民委員会では死刑執行の停止を求める第5 回決議が採択された。こうした動きは、アフリカが引き続き死刑廃止の希望の光であることを示した。
他の国々における進展も、死刑廃止を提唱し続けることで、世界的に死刑が完全に廃止されるのは時間の問題であることを示している。2023 年に絶対的法定刑(裁量の余地のない刑罰)としての死刑が廃止されたマレーシアでは、その後の刑の見直しにより、死刑囚1,000 人以上が減刑を受けた。退任するバイデン米大統領(当時)は、連邦死刑囚40 人のうち37 人の死刑を減刑し、ノースカロライナ州のロイ・クーパー知事(当時)も、年末に15 人の死刑を減刑するなど、注目すべき動きが他にもあった。
12 月には、国連総会の死刑の執行停止を求める10 回目の決議において、加盟国の3 分の2 以上が、賛成票を投じた。この決議への支持は、2007 年に最初に採択されて以来、増加し続けており、加盟国が死刑を合法的な刑罰として否定する方向に着実に前進していることを示す。アンティグア・バーブーダ、ケニア、モロッコ、ザンビアは、国内での死刑廃止に向けた着実な進展と対話を反映して、初めて賛成票を投じた。