- 2018年5月17日
- [公開書簡]
- 国・地域:日本
- トピック:性的指向と性自認
2018年5月17日
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
法務大臣 上川陽子 殿
公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 中川英明
性的指向、性自認に基づく差別禁止に向けた法整備を求める要請書
アムネスティ・インターナショナルは、この要請に賛同する世界中45, 000人を代表して、あらゆる分野で性的指向、性自認を理由とした差別を禁止する法律の制定に貴省が積極的な役割を果たし、すべての人が平等な法的保護を受けられるよう、法整備を推進することを要請いたします。
2020年夏開催のオリンピック・パラリンピックが近づく中、国際法上の義務である差別禁止に向けた日本の取り組みに、より多くの注目が集まっています。国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルは、「Love Beyond Genders」キャンペーンを2017年5月に開始し、世界中で署名活動を展開いたしました。性的指向、性自認を理由とした差別を禁止する法律の制定や、平等な権利保障に向けた法整備を日本政府に求める声に共鳴する人びとは、日本からの約5,000人に加えて、世界115カ国からは40,000人にのぼります。今こそ、主管庁である貴省が、性的指向や性自認を含めあらゆる事由に基づく差別を禁じる法律の制定に向けて、あらゆる分野で積極的な役割を果たすことを強く求めます。
いまアジア地域において、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人びとを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。台湾では、同性カップルの婚姻を認めない現行の民法は差別的であり憲法違反であると憲法裁判所が昨年5月に判断し、同性婚の合法化に向けた政府の取り組みが進められています。また、タイでは、2018年4月に同性婚に関する法案が法務省主導で国会に提出されました。さらに、パキスタンにおいても、トランスジェンダーの人が申告すれば制度上の性別を自認する性別に変更できるようにするとともに、彼らへの差別を禁止する法案が上院で可決されています。
日本においてもまた、LGBTの人権擁護を求める市民の議論が進み、2014年の渋谷区や世田谷区における同性パートナシップ制度の導入を皮切りに、自治体レベルでLGBTの権利を守る取り組みが加速しています。国政のレベルにおいても、2015年に超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」が立ち上がりました。加えて、2017年には、男女雇用機会均等法に基づくセクハラ指針および人事院規則の運用通知や、いじめ防止対策推進法に基づく基本方針の改訂など、性的指向や性自認に関する課題への対応策が進んでいます。さらに、刑法や児童福祉法及び児童虐待の防止等に関する法律の国会付帯決議では、偏見に基づく性的マイノリティへの不当な取扱いをやめ、彼らに対する適切な対応を推進することが確認されています。
アムネスティは、これらの前向きな動きを歓迎する一方で、今なおLGBTの人びとが、学校や職場、医療、家庭など日常生活のさまざまな場面で根強い差別を受け続けており、性的指向や性自認をはじめとする差別を禁じる法律がないことを憂慮しています。LGBTの人びとの中には、自身のアイデンティティを隠すことで自らを守ることを選択し、その結果として当然受けるべき権利を享受できない人や、既存の文化的・社会的制度の枠組みによって自らの存在が周縁化されている人びとも少なくありません。アムネスティが2017年5月に発表したブリーフィング「日本におけるLGBTの人びとへの差別~人権保障の観点から~(原文:Human Rights Law and Discrimination against LGBT People in Japan)」は、現行の枠組みが、性的指向や性自認に基づく差別を受けない権利を守るには不十分であることを明らかにしています。
この国で暮らす一人ひとりが、そして、この国を訪れる誰もが、安心して自分らしく生きられる日本とするため、今こそ国が中心となって動かなければなりません。人権の取り組みにおいて、アジアそして世界の中で日本が強いリーダーシップを発揮することを切に願い、日本政府に対して以下を要請します。
- 性的指向、性自認を理由とした差別を禁止し、すべての人へ平等な法的保護を保障すること
- 国際人権基準に沿った差別の定義を国内法でも導入し、あらゆる形の直接的および間接的な差別を禁止すること
- 公務員・国会議員に対して性の多様性と差別の禁止を含めた人権教育や研修を行い、公務員・国会議員による偏見、差別的言動の問題に取り組み、その行為を是正すること
- 同性カップルの婚姻を認め、同性カップルに異性間の婚姻で得られる権利を平等に保障すること
以上
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