- 2016年4月 8日
- [公開書簡]
- 国・地域:日本
- トピック:子どもの権利
2016年4月7日
文部科学大臣 馳 浩 殿
公益社団法人 アムネスティ・インターナショナル日本
事務局長 若林 秀樹
去る3月29日、文部科学省は都道府県知事あてに「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」として通知を送付しました。アムネスティ・インターナショナル日本は、今回の政府による通知について、政治的判断に基づいて特定のマイノリティ集団の教育の権利に対する差別的取り扱いを助長する恐れがあると懸念します。
同通知において文科省は、朝鮮学校が「北朝鮮と密接な関係を有する」朝鮮総聯が教育内容などに影響を及ぼしていると日本政府が認識している、としたうえで、こうした「特性」を考慮して「朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等」について検討することを促しています。
この通知以前の2月7日、自民党は「北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する緊急党声明」を出し、同党の北朝鮮による拉致問題対策本部が2015年6月に要請した制裁強化策を速やかに実施するよう政府に対して求めています。同要請には、朝鮮学校の補助金交付について、地方公共団体に対して公益性の有無を厳しく指摘し、全面停止および住民への説明を行うことを指導・助言するよう求める提言も含まれていました。
そもそも、2010年に高校無償化制度に関する法が成立して以来、日本政府は政治的判断を理由に朝鮮学校をその適用から除外してきました。それ以降、複数の地方公共団体が朝鮮学校への補助金の交付を凍結あるいは減額する措置をとっています。
一方、朝鮮学校で学ぶ子どもたちの教育に対する権利については、2008年の自由権規約委員会、2010年の子どもの権利委員会および2014年の人種差別撤廃委員会など、国連の条約諸機関が日本に対して繰り返し懸念を表明し、是正勧告を出しています。
人種差別撤廃委員会は2014年の日本審査に関する総括所見で、人種差別撤廃条約の第2条(締約国の差別撤廃義務)と第5条(法律の前の平等、権利享有の無差別)に照らして「朝鮮学校へ支給される地方政府による補助金の凍結もしくは継続的な縮減」について懸念を表明し、「朝鮮学校への補助金支給を再開するか、もしくは維持するよう、締約国が地方政府に勧めること」を勧告しています(パラグラフ19)。
文科省は、同通知において「朝鮮学校に通う子供たちに与える影響にも十分配慮しつつ」としていますが、本来であれば、国連条約諸機関からの勧告を誠実に実施し、朝鮮学校への補助金の維持もしくは再開を地方公共団体に促す内容の通知を出すべきです。
社会権規約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約など複数の国際人権条約は、人種や皮膚の色、政治的意見やその他の意見などにかかわらず、いかなる差別もなしに条約に定める権利を尊重し確保することを締約国に義務付けています。そして、この権利の中に、子どもたちの教育に対する権利も含まれています。
アムネスティ日本は、自国内のマイノリティ集団に属する子どもたちの教育の権利について、特定の国家との外交関係を理由に差別的に取り扱うことはこれら国際人権諸条約上の国家の義務に違反するものであることを、日本政府および各地方公共団体が想起するよう求めます。とりわけ日本政府に対して、2014年の人種差別撤廃委員会によるパラグラフ19の勧告に真摯に向き合い、地方公共団体に対して朝鮮学校への補助金交付の再開あるいは維持を促すよう要請します。
また、社会権規約13条(教育についての権利)に基づき、朝鮮学校を高校無償化の対象に含めることや、現在は無償化の対象となっていない教育機関(「各種学校」とされていない「外国人学校」やフリースクールなど)に通う子どもたちも対象にするよう、アムネスティ日本はあらためて日本政府に要請します。
関連情報
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社会権規約第2条2項は、「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」と規定しています。
また、社会権規約委員会は、その一般的意見8において、国連決議に基づく経済制裁のような場合でも、関係各国は子どもを含む一般の人びとの経済的社会的および文化的な権利を保障する義務を負うと指摘しています。さらに同委員会は、一般的意見13において、教育に対する権利について、「いかなる禁止事由による差別もなく、法律上も事実上も、すべての者にとって、特に、最も脆弱な集団にとってアクセス可能でなければならない」と指摘し、政治的理由に基づく差別的取扱いを認めていません。
・社会権規約委員会 一般的意見第8「経済制裁と経済的、社会的及び文化的権利の尊重との関係」
・社会権規約委員会 一般的意見第13「教育に対する権利(規約13条)」
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子どもの権利委員会 総括所見(2010年)
パラグラフ72
「委員会は、中華学校、韓国・朝鮮人学校及びその他の出身の児童のための学校が不十分な補助金しか受けていないことを懸念する。」
パラグラフ73
「委員会は、締約国に対し、外国人学校に対する補助金を増額し、大学入学試験へのアクセスが差別的でないことを確保するよう慫慂する。」
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人種差別撤廃委員会 総括所見(2014年)
パラグラフ19
「委員会は、(a)高等学校等就学支援金制度からの朝鮮学校の除外、及び(b)朝鮮学校に対し地方自治体によって割り当てられた補助金の停止あるいは継続的な縮小を含む、在日朝鮮人の子供の教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する(第2条、第5条)。
委員会は、市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30(2004年)を想起し、締約国は教育機会の提供において差別がないこと、締約国の領域内に居住するいかなる子供も就学において障壁に直面しないことを締約国が確保することとした、前回の最終見解パラグラフ22に含まれる勧告を繰り返す。委員会は、締約国に対し、その立場を修正し、朝鮮学校に対して高等学校等就学支援金制度による利益が適切に享受されることを認め、地方自治体に朝鮮学校に対する補助金の提供の再開あるいは維持を要請することを奨励する。」
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