日本:籾井勝人NHK新会長の発言に抗議する

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2014年1月29日
[日本支部声明]
国・地域:日本
トピック:女性の権利

2014年1月25日、籾井勝人NHK新会長は就任会見において、「慰安婦」問題について「どこの国にもあった」、「慰安婦そのものは今のモラルでは悪い。じゃあ、従軍慰安婦はどうかと言うと、そのときの現実としてあった」。「戦争してる国にはどこでもあった。ドイツになかったか、フランスになかったか。そんなことはないでしょう。ヨーロッパはどこでもあった」、「あったはずですよ。ないという証拠もないでしょ」、「それで従軍慰安婦の問題を云々されると、それはちょっとおかしい」などの発言を続けた。この発言は、公共放送の会長職にある公人が、政治的な意図をもって、事実を歪曲し、戦時下における組織的な性暴力と性奴隷制を肯定し、国際法上の重大な人権侵害の責任を否定しようとするものである。アムネスティ・インターナショナル日本は籾井会長の発言に強く抗議する。

1930年代初めから第二次世界大戦の終結まで、日本軍性奴隷制の下、多くの女性が日本軍によって自由や権利を奪われた中で、数カ月または数年にわたって強かん、拷問、虐待を受けた(注1)。日本軍性奴隷制は、日本政府および軍が設置、管理等に組織的に関与しており、また台湾を含む中国全土、インドネシアやフィリピン、太平洋上の島々、シンガポール、マレーシア、ビルマ(ミャンマー)、東ティモールに至るまで、広範囲かつ大規模に展開していた点において他に類を見ない。

女性を奴隷化し性暴力を繰り返すこのような行為は、当時の国際法(国際条約および国際慣習法)で確立していた「奴隷制の禁止」に違反し、また戦争犯罪および人道に対する罪としての強かんに該当する。さらに、日本が1932年に批准した国際労働機関(ILO)の強制労働条約にも違反している。日本軍性奴隷制は、当時の国際法においても重大な犯罪であり、今も解決されることなく、日本の対応が国際社会から問われている問題である。

こうした事情を踏まえて、自由権規約委員会、拷問禁止委員会、女性差別撤廃委員会など複数の国際人権機関は、「慰安婦」たちに対して正義を実現するよう、日本政府に繰り返し要請している。

アムネスティ日本は、性奴隷制という国際法上の重大な犯罪および被害者への正義の実現を否定する公人の発言が繰り返されていることを強く非難する。このような発言が出てくる背景には、日本軍性奴隷制の加害責任に向き合わず、生存者一人ひとりへの謝罪と賠償をしないまま、事態を放置してきた日本政府の姿勢がある。

国連の条約諸機関は、日本の公人による発言を懸念し続けている。例えば2013年5月に行われた拷問禁止委員会による日本政府報告審査では、その最終所見において、「政府当局や公人による事実を否定し、またそのような否定を繰り返すことによって被害者に再び精神的外傷を与えようとする試みに反駁すること」という勧告がだされた。拷問禁止委員会はまた、性奴隷制の犯罪に対する法的責任を公に認め、被害者への完全かつ効果的な補償するよう勧告している(注2)。繰り返される発言は、日本政府の国際的な評価を貶める結果となっており、なによりも、沈黙を破り勇気を持って語り始めた生存者の尊厳を深く傷つけている。

日本政府は、籾井会長も口にしたように、「日韓基本条約で国際的に解決している」としばしば主張する。しかし、日韓基本条約は、国家間の請求権の処理を規定するのみで、もともとある被害者個人の請求権を消滅させるものではあり得ない。同条約では性奴隷制の問題は想定されていなかった。未だに生存者たちに対する公の謝罪も補償もなされていない以上、日韓両国はこの問題ついて具体的な協議を直ちに開始すべきなのである。

アムネスティ日本は、日本政府に対し、このような公人の発言を許さず、国際社会からの勧告に従い、次のことを直ちに実行するよう要請する。

  • 公人による、性奴隷制の事実や責任を否定する発言に対して、公式に反駁する
  • 日本軍性奴隷制の生存者が納得する方法で、彼女たちが被った損害を公に認める。また法的・道義的責任を全面的に受け入れる。
  • 生存者に対し、旧日本軍が犯した犯罪について全面的に、はっきりと謝罪する。
  • 日本政府は、国際基準に適った、十分かつ中身のある補償を、生存者が同席する場で、直接、彼女たちに示す。
  • 第2次世界大戦に関する歴史の教科書に日本軍性奴隷制度について正しく記載する。

アムネスティ・インターナショナル日本声明
2014年1月29日