- 2013年6月 3日
- [公開書簡]
- 国・地域:日本
- トピック:取調べの可視化
法務大臣 谷垣 禎一様
法制審議会
新時代の刑事司法制度特別部会
委員 各位
法制審議会特別部会第1作業分科会・第2回会議の討議内容を受けて
取調べの全過程録画の早期実現を再度求める要請書
去る4月10日、私たちは、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会が採択した「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」(以下、基本構想)を受けて、同部会が取調べの全過程の録画(可視化)の導入に極めて消極的であることに強い懸念を表明しました。その上で、作業分科会において、すべての事件の被疑者および参考人の取調べにおける全過程の録音・録画の義務付けを制度設計の明確な基本原則とするよう、強く求めました。
しかし、第1作業分科会の討議内容をみると、「原則として、被疑者取調べの全過程について録画・録音を義務付ける制度」と並んで「録音録画の対象とする範囲は、取調官の裁量にゆだねる」という案が併記されています。そして、全過程の録画・録音を義務付ける制度案については、多くの例外事由が掲げられ、議論されることとなっています。私たちは、このような議論の現状に強い懸念を表明するものです。
法務大臣による特別部会を設置する諮問は、足利事件や村木事件など、深刻な冤罪事件が相次いで発覚し、取調官による被疑者への違法・不当な取り調べと自白の強要が深刻な問題として社会的に認識されたことにあることは明らかです。2012年にも、いわゆる「PC遠隔操作」事件において虚偽自白が明らかになり、密室による不当な取調べの問題が改善されているとはとても言えない状況です。これまでの冤罪の反省に立ち返り、二度と冤罪による悲劇を繰り返さない、抜本的な改革が今こそ求められています。
私たちは、特別部会が、その設置の原点に立ち返り、新たな冤罪被害者を生まないように、被疑者の取調べの全面可視化(全過程の録音・録画)を実現するよう、改めて要請します。
この点で、取調べの録音・録画を取調官の一定の裁量に委ねるものとする制度は、取調室を密室のままに据え置くことを可能とするものであり、新たな冤罪の温床をつくる危険性もあり、私たちは明確に反対の意を表明します。
また、取調べの全過程の録音・録画に関する例外事由はいずれも拡大解釈され、全過程録画の趣旨を骨抜きにする危険性があります。密室での取調べによる違法行為、自白強要を根絶するためには、例外なき全過程の録画が必要です。
現在議論されている例外事由は、主として録画・録音に伴う弊害に対処するという理由から提起されています。しかし、いずれも録音・録画された媒体についての閲覧・謄写・法廷への顕出の制限によって十分に対応できるものであり、取調べの録音・録画の義務付けの例外を認める必要性は認められません。
取調べの可視化を求める市民団体連絡会は、その発足以来、日本の刑事司法改革は、取調べ過程における被疑者の権利保障を国際人権基準に合致させることを第一の目的とするべきであると、繰り返し主張してきました。
私たちは、法務大臣ならびに法制審議会特別部会全委員に対し、法制審議会特別部会設置のそもそもの原点に立ち返るよう求めます。そして、通信傍受の拡大や会話傍受の導入など、国際人権基準に違反する疑いのある捜査当局の権限拡大の抱き合わせではなく、例外なく全過程の録音・録画を早期に導入するための検討を進めるよう、強く要請いたします。
2013年6月3日
取調べの可視化を求める市民団体連絡会
【呼びかけ団体】アムネスティ・インターナショナル日本/監獄人権センター/日本国民救援会/ヒューマンライツ・ナウ
【構成団体】国際人権活動日本委員会/志布志の住民の人権を考える会/社団法人自由人権協会/人権と報道・連絡会/菅家さんを支える会・栃木/フォーラム平和・人権・環境/富山(氷見)冤罪国賠を支える会/名張毒ぶどう酒事件全国ネットワーク/袴田巖さんの再審を求める会/袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会/「冤罪・布川事件の国家賠償請求訴訟を支援する会」/無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会
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