- 2013年5月24日
- [NGO共同声明]
- 国・地域:日本
- トピック:
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5月13日、大阪市長であり、50人以上の国会議員を擁する日本維新の会の共同代表である橋下徹氏は、第二次世界大戦中のいわゆる「従軍慰安婦」制度が軍の規律を維持し、兵士に休息を提供するために必要だったと発言した。
橋下氏は「あれだけ銃弾の雨嵐のごとく飛び交う中で,命かけてそこを走っていくときに,そりゃ精神的に高ぶっている集団,やっぱりどこかで休息じゃないけども,そういうことをさせてあげようと思ったら,慰安婦制度ってのは必要だということは誰だってわかる」と記者団に語った。
同時に彼は、当時の日本政府が慰安婦を強制連行した証拠はないと言及した。
私たち、下記の国際NGO、アジア地域および他の地域のNGO68団体は、重大な女性の人権侵害を正当化しようとするこの言語道断の発言に対し、強く抗議する。 -
「従軍慰安婦」は、第二次世界大戦中、日本軍がアジア各地の「慰安所」その他の場所で、旧日本軍による広範かつ組織的な性的な暴力を受けてきた被害者である。韓国、中国、フィリピン、インドネシア、オランダ、その他の国と地域の女性達が犠牲となった。
被害者たちは拘束状態に置かれ、旧日本兵により性交渉を強要され、性的に搾取された。女性達は、殴る、身体を刺す・焼く等、容赦ない暴力に晒され、特に抵抗した場合は残虐であった。
監禁時の取り扱いが凄惨であったために多くの女性達が命を奪われた。生存している元被害者たちも、人間の尊厳を踏みにじる取扱いを受けた結果、長年にわたり心身に極めて深刻な傷を負い続けてきたものである。
国連「女性に対する暴力」特別報告者ラディカ・クマラスワミ氏の調査報告その他の国連調査報告に正当に認定されている通り、「従軍慰安婦」制度の実態は、「性奴隷制」にほかならない。
国際刑事裁判所に関するローマ規程に明記されている通り、戦時下におけるレイプ、性奴隷制、強制買春は、「人道に対する罪」「戦争犯罪」を構成する最も深刻な国際犯罪のひとつである。
「従軍慰安婦」制度が、国際法に違反する重大な人権侵害であり、いかなる意味においても正当化・合理化できないことは明白である。
橋下氏の発言は、「慰安婦」とされた被害女性たちの心情をさらに深く傷つけている。私たちは、橋下氏に対し、速やかに発言を撤回し、被害者に公式に謝罪するよう求める。 -
さらに懸念されるのは、慰安婦制度の強制的性格を否定する橋下氏の発言は、2007 年の第一次安倍晋三内閣の「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする閣議決定に端を発したものであり、 橋下氏一人の問題にとどまらないことである。
「慰安婦」制度に関する調査結果に基づいて河野官房長官(当時)が1993年8月4日に公表した談話(河野談話)は「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあった」と公式に認めている。
また、日本の裁判例の中には「慰安婦」の強制的性格を明確に認めた判決がいくつもある。
さらに、多くの生存する被害者たちは、拉致やその他の強制的手段、例えば公式な徴用や兵士による身体拘束、暴力・脅迫などによって性的奴隷とさせられたことを「女性国際戦犯法廷」等の場で公然と証言している。慰安婦制度の強制的性格を否定することは到底認められない。
人権侵害の重大性にもかかわらず、日本政府は被害者に対する直接的な国家補償、真摯な謝罪、被害者への十分な救済措置を怠り、安倍政権下では、2007年の閣議決定を維持・公言して、慰安婦制度の強制性を否定しようとする動きもある。
こうした日本の態度は自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会、拷問禁止委員会、ならびに国連人権理事会普遍的審査等の国連人権機関から繰り返し非難されている。
長年にわたり救済を受けてこなかった「慰安婦制度」の被害者に対して、真実を公式に明らかにし、人権侵害の事実を正面から認めたうえで公的な謝罪をすることはとりわけ求められている。
私たちは、日本政府に対し、橋下氏の一連の発言を公式に非難し、「従軍慰安婦」制度が強制的性格を有し、重大な人権侵害であることについて、留保なしに明確に再確認するよう求める。
アムネスティ・インターナショナル
Amnesty International
ヒューマンライツ・ナウ
Human Rights Now(HRN)
反差別国際運動
The International Movement against
All Forms of Discrimination and Racism (IMADR)
ほか65団体
NGO共同声明 2013年5月23日
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