- 2013年1月29日
- [日本支部声明]
- 国・地域:朝鮮民主主義人民共和国
- トピック:
日本政府は、1月25日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における人権侵害を調査する「新たな調査メカニズム」設置を含む、同国の人権状況に関する決議案を、3月の人権理事会において欧州連合(EU)と共同で提出すべく、関係各国との協議を開始すると決定した。「調査メカニズム」設置の検討については、2010年8月に、同国の人権に関するマルズキ・ダルスマン国連特別報告者が国際社会に求めていた。アムネスティ・インターナショナル日本は、長年にわたって同国が国内外で秘密裏に行ってきた重大な人権侵害に光を当てる重要な第一歩とするために、十分な機能と能力を備えた調査メカニズム設置を含む決議案とするよう、日本政府および関係各国に要請する。
アムネスティも参加するICNK(北朝鮮における人道に対する罪を止める国際NGO連合:注参照)は、同国の人権侵害を明らかにするために、「国連調査委員会」の設置を各国政府に働きかけてきた。
人工衛星発射に国際社会の関心が向けられる中、一般の人びとの生活は極度に困窮している。20万人が収容されていると言われる「政治囚収容所」における、子どもを含めた強制労働・拷問・恣意的処刑・公開処刑に代表される国内の人権侵害が、脱北者たちの証言により明らかにされている。表現・移動の自由が厳しく制限される中、政府や指導者への批判は抹殺されている。
同国が、これまで国連からの人権状況の改善の働きかけをすべて拒否する中、2013年1月14日、国連のナビ・ピレイ人権高等弁務官は、同国内での重大な人権侵害を調査する「国際的な調査機関(full-fledged international inquiry into serious crimes)」の設置に向け「国際社会はより努力すべきだ」との声明を出し、国際社会の協力を求めた。同国の国連特別報告者ダルスマン氏を中心に調査人員・予算枠が補強された国連による調査委員会が設置されれば、同国の人権状況は必ずや国際社会に明らかにされるはずである。
日本政府の今回の決定は、政府が長年取り組んできた拉致問題の解決だけではなく、政治囚収容所を含めた同国の人権状況全般に向けた解決への第一歩となることが期待されている。アムネスティ・インターナショナルは、「国連人権調査委員会」の設置に向けて、国連人権理事会の理事国各国が一致団結して協力することを求める。
(注)
2011年9月8日、世界の三大国際人権団体(アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、FIDH)をはじめ、世界各国の40を超える団体や個人からなる国際NGO連合。
(ICNK: International Coalition to Stop Crimes against Humanity in North Korea)
背景情報
アムネスティ・インターナショナルは過去、年次報告書、レポートを通して同国の食糧問題、医療問題、政治囚収容所問題等を取り上げてきた。2011年から2012年には、スターリン時代のグラーグ(強制労働収容所)をしのぐとも言われ、同国の人権侵害の象徴的存在である「政治囚収容所の即時閉鎖を求める」国際キャンペーンを展開し、当局にアピール手紙と署名165,000通の手渡しを試みたが、当局はアムネスティの入国とアピールの受け取りを拒否した。
人工衛星発射に国際社会の関心が向けられている一方、国内の食糧事情は極端に悪い。世界食糧計画(WFP)の報告によると、1日1人当たりの配給量が200g以下に減ったため、女性や乳幼児・子どもなど弱い立場にある人びとの間に栄養失調が常態化し、医療不備も伴い、結核が蔓延している。
推定20万人の人びとが、散在する6つの政治囚収容所で過酷な状況に置かれ、他にも数千人が、180以上ある拘禁施設に収監されている。収監されているのは、体制に対する批判者、失敗した公務員、韓国人と接触したか韓国放送を聴いた者、国からの脱走を図った者などで、その家族の最大3世代までに「連座制」が適用される。危険な強制労働や不十分な食糧、虐待、非衛生的な生活状況などにより、多数が拘禁中あるいは釈放直後に死亡、また見せしめのための公開処刑が行われているが、政府は政治囚収容所の存在を否定したままだ。
同国には独立した国内報道機関はなく、独立した野党も、独立した市民団体も存在しない。政府や指導者に対する批判は厳しく抑え込まれており、批判したことを知られれば逮捕され、収容所に入れられる。インターネットにアクセスできるのは限られたごく一部の者だけだが、国内ネット上で厳しく監視されている。中国製携帯電話の使用者を弾圧し、電話回線は中国の丹東に近い国境の街、新義州市で遮断されている。食糧や仕事を求めて中国に逃げた人びとは、中国当局によって強制送還されることが多い。
同国の人権に関する国連の前特別報告者ヴィティット・ムンターボーン氏は、その最終報告書で、同国における「悲惨で恐ろしい」「言語道断な状況で蔓延している」「組織的・広範な」人権侵害に関し、その「免責を終わらせること」の必要性と、「同国における人権の促進・保障のため、国連のあらゆる組織を総動員すること」の必要性を、国際社会に説いた。
同国は「社会権規約」「自由権規約」「子どもの権利条約」「女性差別撤廃条約」の締約国であるが、2010年3月、2009年の国連普遍的定期審査(UPR)で指摘された人権状況に対する勧告の受け入れも「留意する」と述べただけで、受け入れを拒否した最初の国である。
2010年8月、同国の国連特別報告者に任命されたマルズキ・ダルスマン氏は、最新の報告書で「朝鮮民主主義人民共和国におけるはなはだしい人権侵害は、数十年の間に、国連組織内の団体を含む様ざまな機関・団体・個人によって詳細に取りまとめられている」ことを指摘し、さらに各国および国際社会に、「人権侵害の根本的なパターンや傾向を把握し、より詳細な調査のメカニズム(more detailed mechanism of inquiry)設定を検討するよう」求め、2011年12月17日に金正恩氏が父親を継いだ後も、同国の「悲惨な人権状況」の改善はみられないと結論付けた。
アムネスティ日本支部声明
2013年1月29日
▼関連動画
以下のURL(You Tube)から、アムネスティのアピールが届けられるシーンが見られます。
▽Yodok: petition handover
http://www.youtube.com/watch?v=_aqpKJkDRfA&list=FLTVbpbYSSnLG7VzgY00P-jw&index=1&feature=plcp
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