- 2012年9月13日
- [国際事務局発表ニュース]
- 国・地域:イタリア
- トピック:先住民族/少数民族
家が壊されるのをみて立ち尽くす少年。 2009年 © Christian Minelli
イタリアのロマの人びとを社会から追いやる差別的な法律、政策、慣習をただちに変えるべきである。アムネスティ・インターナショナルは9月12日に発表した報告書でこのように訴えた。
「危急の事態:イタリアにおけるロマの強制立ち退きと人種分離」と題する報告書は、イタリア当局がロマの人びとの権利を守ることを組織的に怠り続けている事実を明らかにしている。
2008年に政府がロマをターゲットにした「放牧民非常事態」宣言以来、長期にわたる非常事態のもとでロマの人びとの人権は侵害され続けている。昨年11月にイタリアの最高行政裁判所はこの条例を違法であると判定したが、今でもロマに対して賠償金も支払われず、効果的な救済もおこなわれていない。
イタリア政府は国際社会としての義務も欧州委員会への約束も果たしていない。キャンプに住むロマの人びとは、子どもも女性も男性も適切な話し合いの機会、事前の通知、代わりの住居さえ与えられずに次々と追い出されている。非公認のキャンプの住人が最もひどい影響を受けており、ことあるごとに立ち退きを強いられている。
ローマから離れたラ・バルブタに新しい人種分離キャンプが最近オープンしたが、それはローマ当局が問題解決を怠っている明らかな例である。
モンティ内閣は過去の内閣のようにロマを軽蔑した言葉遣いこそしないが、約束したことを実行に移さないという点では前内閣等と何ら変わりはない。
イタリア政府は2012年2月に「ロマ一体性への国家戦略」を欧州連合に提出し、ロマ差別をなくし、ロマの生活改善のための努力をする約束をした。しかしその後、ローマ、ミラノに住む何百ものロマの人びとも強制立ち退きをさせられホームレスになっている。
公認キャンプ、あるいは非公認でありながら政府が大目に見てきたキャンプを閉鎖する政策は、真に相談と呼べる手続きも、適切な法的保護もなく続けられている。公認キャンプのほとんどが劣悪な生活環境にあり、無認可キャンプはさらにひどく、水道、トイレ、電熱などがほとんど整っていない。ロマに対する民族差別は絶えることなく、ロマ人は公営住宅からしめだされている。
どこからも追い出され続けるロマの人びとの多くは危険にさらされた所に小屋をたてて住むほかない。水道や下水道なども届きにくく、風雨にさらされ、鼠がはびこる環境である。
「私は怒りでいっぱいだ。公認キャンプに住み、仕事もあり、子どもたちは学校に通っていた。それなのに、今はすべて失ってしまった」とダニエルは言う。彼はイタリアで12年間暮らし、ミラノの公認キャンプに住んでいた。しかし2010年5月に彼は家族ともども強制的に立ち退かされた。そして現在、ミラノの無認可キャンプに住んでいる。
ローマの自治体当局の情報筋によると、今年の前半期だけで850人の人びとが無認可キャンプから追い出された。緊急避難所への移転先を紹介されたのは209件で、その全てが女性と子どもたちだった。そのうち実際に避難所に移転したのは5人の母親と彼女らの9人の子どもたちだけで、ほとんどの家族が離れ離れになるのを恐れて避難所への移転を拒んだ。
イタリアのロマは、数少ない公営住宅にロマの人びとを入れさせまいとする役人が設定する入居資格がないなど障害の壁に阻まれている。
イタリア政府は9月2日から5日間、第6回世界都市フォーラムを共催したばかりだ。人びとの生活向上の必要性に焦点をあてたものだった。イタリア当局は今こそ国際的義務を無視することをやめ、公認または無認可のキャンプに住むロマの人びとにまともな住居を与え、彼らの生活を向上させるべきだ。人間らしく生活できる住居に住むのは人間の権利なのだ。そしてロマの家族たちが社会に溶け込み、社会の平等な一員として暮らしていけるよう支援すべきである。欧州委員会は、イタリア政府が、居住権という人権に関してロマ人を差別していることを、人種民族均等指令違反として調査すべきである。
司法的展開
イタリアにおけるロマの強制立ち退きと人種分離に関して最近2件の裁判判決が、ロマの権利獲得に希望の光を与えている。
今年7月31日、ローマ市長がトール・ド・センチのキャンプを閉鎖することを命じた。ここは1996年以来、ボスニアとマケドニア出身のロマの人びとが住んでおり、閉鎖の表向きの理由は衛生設備の欠如とそれによる居住者の健康へのリスクとしている。
市が代替居住地として提供したのは市から遠く離れたラ・バルブタとカステル・ロマーノという2カ所のキャンプで市の各種サービスが行き届かない場所である。
地区行政裁判所は2012年8月27日、トール・ド・センチのキャンプに残る家族たちからの要請で市長による立ち退き命令の一時停止を命じ、裁判所が立ち退きに関する最終結論を出すまでは当局にそのキャンプの住民の健康と安全を守る責任があることを強調した。
一方、7月末から8月初めにかけておよそ200人がトール・ド・センチからラ・バルブタに移された。ラ・バルブタは鉄道とローマの外郭環状道路とキアンピーノ飛行場の滑走路に囲まれた陸の孤島のような所である。
これに対し、ローマの非政府組織が、新しいキャンプは人種差別によるものだと主張し、差別予防措置としてラ・バルブタへの新たなロマ移送の停止を市民裁判所に訴えた。裁判所は8月4日に、その訴えについて検討する間、新しいキャンプへのロマ人移送停止要請を認める判定を下した。
アムネスティ国際ニュース
2012年9月12日
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